ひんがしの 国のならひに 死ぬことを 誉むるは悲し 誉めざれば悪し
勇ましき 佐久間大尉と その部下は 海国の子に たがはずて死ぬ
瓦斯に酔ひ 息ぐるしとも 記しおく 沈みし艇の 司令塔にて
大君の 潜航艇を かなしみぬ 十尋の底の 臨終にも猶
武夫の こころ放たず 海底の 船にありても 事とりて死ぬ
海底の 水の明かりに認めし 永き別れの ますら男の文
水漬きつつ 電燈きえぬ 真黒なる 十尋の底の 海の冷たさ
海底に 死は今せまる 夜の零時 船の武夫 ころも湿ふ
大君の 御名は呼べども あな苦し 沈みし船に 悪しき瓦斯吸ふ
いたましき 艇長の文 ますら男の むくろ載せたる 船あがりきぬ
やごとなき 大和だましひ ある人は 夜の海底に 書置を書く
海に入り 帰りこぬ人 十四人 いまも悲しき 武夫の道
髪白き 生田小金次 先生は 佐久間を語り 春の日も泣く
[参考]
佐久間勉艦長の遺書