「轍と子供」金子みすゞ
轍と子供 轍わだちは轢ひくよ、 すみれの花を、 石を轢くように。 田舎のみちで。 子供はひろう、 ちいさな石を、 ...
轍と子供 轍わだちは轢ひくよ、 すみれの花を、 石を轢くように。 田舎のみちで。 子供はひろう、 ちいさな石を、 ...
鯨法会くじらほうえ 鯨法会は春のくれ、 海に飛魚とれるころ。 浜のお寺で鳴る鐘が、 ゆれて水面みのもをわたるとき、 村...
積もつた雪 上の雪 さむかろな。 つめたい月がさしていて。 下の雪 重かろな。 何百人ものせてゐて。 中の雪 さみ...
お魚 海の魚さかなはかはいそう。 お米は人につくられる、 牛は牧場まきばで飼はれてる、 鯉もお池で麩ふを貰ふ。 けれど...
お乳の川 なくな、仔犬よ、 日がくれる。 暮れりや 母さんゐなくとも、 紺の夜ぞらに ほんのりと お乳の川が み...
大漁 朝焼小焼だ 大漁だ、 大羽おほば鰮いわしの 大漁だ。 浜は祭りの やうだけど 海のなかでは 何萬なんまんの ...
こだまでせうか 「遊ぼう」つていふと、 「遊ぼう」つていふ。 「馬鹿」つていふと 「馬鹿」つていふ。 「もう遊ばない」...
星のかず 十とおしきやない 指で、 お星の かずを、 かずへて ゐるよ。 きのふも けふも。 十しきやない 指で...
おてんとさんの唄 日本の旗は、 おてんとさんの旗よ。 日本のこども、 おてんとさんのこども。 こどもはうたほ、 ...
帆 港に着いた舟の帆は、 みんな古びて黒いのに、 はるかの沖をゆく舟は、 光りかがやく白い帆ばかり。 はるかの沖の、あの舟...
箱庭 私わたしのこさへた箱庭を 誰たあれも見てはくれないの。 お空は青いに母さんは いつもお店でせはしさう。 祭りはす...
夢売り 年のはじめに 夢売りは、 よい初夢を 売りにくる。 たからの船に 山のやう、 よい初夢を 積んでくる。 ...
げんげ畑 ちらほら花も 咲いている、 げんげ畑が 犂すかれます。 やさしい瞳めをした 黒牛に 曳かれて犂すきが うご...
星とたんぽぽ 青いお空の底ふかく、 海の小石のそのやうに、 夜がくるまで沈んでる、 昼のお星は眼にみえぬ。 見えぬけれども...
私と小鳥と鈴と 私が両手をひろげても、 お空はちつとも飛べないが、 飛べる小鳥は私のやうに、 地面ぢべたを速くは走れない。 ...
此の道を行けば どうなるのかと 危ぶむなかれ 危ぶめば 道はなし ふみ出せば その一足が 道となる その一足が 道である わからなくて...